山岡政紀 書評集No.21
『言語科学への招待』 郡司隆男著/1988年12月20日発行/丸善刊/定価1200円
言語学ほど、その方法論の特殊さが、一般的に理解されていない科学は珍しい。その点、本書は言語学者と言語学にナイーヴな物理学者を登場させての対話形式で、言語学の現在の方法論をわかりやすく紹介している。
しかし、言語学自体が、常に方法論の変遷を繰り返し続けている途上にあるだけに、入門書としては、どの立場を基準に置くかが重大な問題となる。その最大のヤマ場は、統語と意味との関係をどう扱うかである。単に統語について解説するだけなら、意味の問題をほとんど無視してきた変形生成文法が手ごろであり、本書の前半はその立場に立っている。ところが、意味を抜きにしては、言語の解明に関して払う犠牲があまりにも大きいので、後半では状況意味論などを援用しつつ、正直に変形生成文法の限界を告白しているところは潔い。にもかかわらず、意味論は自然科学の方法論とは基本的に相容れないという認識は、筆者には欠落している。「意味」なるものを排除してこそ自然科学は成立しているということを、自然科学者の側から批判されるであろう。
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