山岡政紀 書評集No.14


『意味と生命(暗黙知理論から生命の量子論へ)』 栗本慎一郎著/青土社刊/1988年6月25日発行/定価1800円

 栗本氏の一連の思想の根底を流れる哲学を、本書を通じて初めて知ることができる。西洋形而上学の要素還元主義を徹底して批判するため、人工知能に期待を抱くことで要素還元主義の最後の生きる道を求める類の人は本書にショックを受けるだろう。それにかわる彼の基盤は「暗黙知」である。マイケル・ポランニーが主張してきたそれは、人間が対象に対する際に、対象より上位の「意味」を読み取りうるような接触の仕方に於いて自身の内部に構成する一種のゲシュタルトである。彼はこの理論を独特の身体論へと具体化させることでマイケルを乗り越えた。これは、単なるホーリズムとも異なる。人間の知を制約する身体構造に対する鋭いアプローチを以て、ホーリズムに至る前段階の人間の認知の中間層を独特の内観的手法で論ずるのである。さらに、生命の誕生をめぐって、究極の第一原因なるものの包括的な意味に迫る。満を持して出版された栗本哲学の決定版である。


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