山岡政紀 書評集No.10


『記号理論の基礎』  Ch.W.モリス著/内田種臣・小林昭世訳/勁草書房刊/1988年1月25日発行/定価1500円

 1930年代の記号学の古典的序論の邦訳が出た。内容的には簡明であり、記号学が独立した方法論を持つ科学として存在すべきこと、むしろメタ科学的な要素すら持ち合わせること、などを容易に知ることができ、非専攻者の入門書として適当である。
 本書の特徴は、現在の記号学が通常そうであるように、記号を指示媒体、指示対象、解釈者等の項の諸関係として規定することにあり、言語記号論の下位分類である統語論(syntax)、意味論(semantics)、語用論(pragmatics)もまた 今なお、これら諸項の関係によって定義され、区分されている。一般には、行動主義的であると評されるが、それは言語形式への傾斜からくるもので、本質的には精神活動は軽視されていないように思う。
 訳としてはまず無難と思われるが、定義を伴う概念の微妙な使い分けには、原語を付記するなどして読者が日本語の先入観にとらわれないための工夫が欲しかった。


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