山岡政紀 書評集


『一度も植民地になったことがない日本』 デュラン・れい子著/講談社+α新書/2007720日発行/838円/ISBN978-4-06-272448-7

書名に惹かれてこの本を買った。痛烈な日本民族批判なのかと思ったら、そうではなかった。予想とは全く違ったいみで、十分におもしろい本ではあったが、もう少し内容に即した書名をつけた方がよいのではないか。例えば、大学入試の国語の問題で「この本の内容にふさわしい題名をつけるとしたら」といった問題が出たとしたら、正解は『ヨーロッパ人の日常会話にのぼる日本のイメージ』とか『ヨーロッパ人の目に映る日本の姿』くらいが妥当で、この書名では全く不正解になるだろう。

私はこの本の書名を批判しているのではない。むしろ、「まったく、してやられたなあ」と兜を脱いでいるのである。どんな書名をつけようが著者の自由である。ともあれ、この書名ゆえに買ったという事実があるのだから。

女性コピーライターとして活躍した著者は、スウェーデン人の夫を持ち、ヨーロッパ各地を移り、暮らしてきた。世界を股に掛けて飛び回る国際人であればこそ、外国文化の中で相対化された自身の日本人としてのアイデンティティに気づかされることが多かったのだ。本書はその日記的な回想録である。外から見た典型的日本人の姿に、独創性のなさや意見を言わない従順さ、寡黙さなどを物足りなく感じながらも、ヨーロッパで出会った人々から日本人の清潔さ、駅弁に象徴される日本の食文化の豊かさなどを指摘され、そのことを日本人として誇らしく思う著者の心情が表現されている。あるいみ、とっても可愛らしい回想録だと思う。

さて、書名にもなった、「日本がアジア・アフリカで唯一植民地になったことがない国であること」も、オランダで出会ったスリナム出身の女性から言われた言葉でふと気づいたのだという。このことを著者がどう評価しているのかは明らかでないが、少々気になる。誇らしく思っているように取れなくもない。私が書店でこの書名に注目したのは、それこそが日本にとって恥ずべきことだと思っているからにほかならない。加害者になるぐらいなら被害者になった方がましだ。かつて韓国や台湾を植民地支配した日本の子孫として日本は平和への責務を背負っている。世界のどこにいてもそのことを忘れない日本人でありたいものだと思う。


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