創価大学における学生支援のあり方を考える

学生部長 山岡政紀

 

 学生部長を拝命して七ヶ月が経過した。創大生が建学の精神を体現すべく、自発能動的に大学運営や大学行事に関わっていく姿に、いくたび感銘を受けたことか。学生は次々と社会へ巣立って行くが、学生自治会、学寮、学友会を中心に建学への取り組みが継承され、あたかも創大生という一つの生命体の如く、草創期よりこのキャンパスに息づいている。

 いっぽう大学本来の機能である授業を司るのは、一定の学識を持ち、大学の永続的なファカルティ・メンバーである教員の専権的職能であるが、この授業においてさえも、学ぶ側の能動的発露を強調される創立者の教育論に照らし、かつ、創大生の伝統継承に見られる個を超えた永続性に着目するならば、学生が主体者として教育内容を立案して教授に要望し、教授はそれに沿って授業を行うという究極の学生主体の姿を思い描くことも、あながち全くの夢想とも言えまい。

 

今のところそれを極論とするとしても、学生の学びの側に教員が歩み寄り、そのニーズに真摯に耳を傾けることによって成り立つ取り組みという点では、本学は既にそうした取り組みをいくつか実行している。CETLを中心とするFD活動こそその好例で、教員が有する知的財産を、真に学生にとって有益なものへと昇華させる一種のインターフェイスとも言えよう。もちろん、他大学にもFD活動の実例は多くあるが、本学におけるそれは学生中心の教育という建学の精神の具現化の一環であって、単なる先行事例の模倣ではない。キャリア・センターによる近年のキャリア教育の充実なども学生の社会的ニーズに対する対応として評価される。

 

今後さらに一歩進んで創大生が具えている豊かな自発能動性を教育の柱に据え、尊重していく取り組みが重要なテーマになると私は考えている。学生同士が教え合うピア・エデュケーションの適切な導入もその一環である。キャリア・サポート、教職サポート、ワールド会などの活動はそのよき事例であり、また、学術系クラブの研究活動の中にも、学生の自発的な相互教育・相互学習の注目すべき本格的成果が少なからず見られる。

 

このように学生自身の自発能動性を根幹に据えるならば、大学教育のメイン・コンテンツたる授業もまた、広義の「学生支援」と言える。授業において教員は、学生の目的実現をサポートするアイテムとして知識を提供しているのである。創価大学の組織機構である「学生支援センター」には、私が担当する学生部、留学支援の国際部、就職・進路支援のキャリア・センターと並び、授業を司る教務部も広義の学生支援の一つとして含まれている。

 

さて学生部は、狭義の学生支援として、学生生活の支援を担当している。具体的には、奨学金、寮生活、クラブ活動に関する業務や、交通事故の対応、心身の健康問題に関する業務を効率よく分担し、職員が日々学生のための業務に懸命に従事している。授業に関する問題と学生生活の関する問題とは実際のところ、学生自身においては密接に連続していて切り離せないところがある。そして、学生の豊かな可能性と共存しながら、それを妨げる障害となる影の部分の諸要因に気づかされる分野でもある。

 

私は学生相談室長を兼務しているが、誰に相談してよいかわからない内容の相談は私のところに来ることも少なくない。また、私は文学部のアドバイザーの一人でもあり、学業成績に関する個人指導も行っている。それらを含めてこの七ヶ月で個人面談をした学生数は、およそ120名にも上る。元気な学生の積極的な相談としては、大学内の学生組織や行事の運営に関するもの、英会話や環境対策等で学内に知的啓発の活動を行いたいとする意欲的なものなどがあった。いっぽう悩みの相談としては、家庭の経済的問題、学生どうしの人間関係のこじれ、教職員とのトラブル、大学の気風に関するもの、精神的問題などが多かった。これらが要因となって、学生が学業に集中できないことも多い。

 

 文学部のアドバイザーとしての感想も付け加えたい。文学部の5学科を統合再編して昨年人間学科が発足した際、私はアドバイザー制度の導入に携わらせて頂いた。その前年には当時の坂本辰朗CETL長(現・教育学部長)とともに国際基督教大学(ICU)に、先行事例の視察に赴いた。単一の教養学部からなる典型的なリベラル・アーツ・カレッジであるICUでは、文系から理系まで幅広い科目群の中から履修するため、学生の目的や関心に沿った科目履修をアドバイザーの教授が丁寧にアドバイスする。これこそ、アカデミック・アドバイザーと呼ぶのにふさわしいもので、専修に分かれる以前の人間学科1年次生に対してはこれに近い役割を担うことになる。

 

しかし、それ以外の創大生はある程度の専門性を既に付与されており、アドバイザーの役割は限定され、GPA2.0未満の学生の学業指導がアドバイザーの本務となった感さえある。私自身、この立場での面談では履修方法の改善などももちろん具体的に指導するが、実際のところ、経済的問題、精神的問題、クラブ活動との両立の問題等、学生生活上の諸問題が学業不振の一因となっているケースも少なくない。そのため、結局は全人格的に関わり、激励していく「学生生活アドバイザー」の要素も同時に必要になる。

また、家庭の経済的問題に起因したアルバイト漬けや遠距離通学が成績不振の原因となっているケースを聞くと、精一杯の激励を行うと同時に、学生部長として奨学金拡充や学寮拡充の必要性を感じさせられる。こうした問題に触れながら、より幅広い学生の問題に積極的に対処していける学生相談のあり方を検討する必要性も痛感している。

 

いずれにしても、成長途上の若い学生には誰しも光と影が共存している。どちらが顕在化しているかだけの差異に過ぎない。だからこそ私は、学生の影の部分に触れながらもなお、変わることなく学生の豊かな可能性を見つめ、尊敬の心で接するようにしている。それが創立者池田先生に教えて頂いた生き方であると信じている。少しばかり人生の先を歩き、たまたま幸運に恵まれて現在教職にある者として、どこまでも学生を見上げる思いで学生支援の道を模索している次第である。

 

C.E.T.L. Quarterly(せとる・くおーたりー)』(教育・学習活動支援センター広報)No.33 「巻頭言」 2008.11.18


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